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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)5号 判決

一 請求の原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。

(なお、成立について争いのない甲第一号証によれば、審決の理由の記載は必ずしも判然としないけれども、審決は、本件意匠をもつて、その登録出願前に公然知られた意匠に類似するものとしたものではなく、その登録出願前に頒布された刊行物に記載された意匠、すなわち本件記事記載の意匠に類似するものとして、その登録を無効とすべきものとしたものと認められる。)

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。

1 成立について争いのない甲第二号証(本件意匠の意匠公報)、第三号証、第一〇ないし第一四号証によれば、本件意匠の意匠に係る物品である分級機はドラム式分級機と称されるものであつて、ドラム式分級機は、一般に、回転するドラム中に土砂、砂利、砕石等の混ざつた液体を注ぎ込んで、比重の違いによつて沈澱しあるいは浮遊する砂利、砕石等を分級、回収する機械であり、沈澱物等をドラム内から外部に排出して回収する機構としては種々の方式が工夫されていて、これに伴い該排出・回収部位の外観形状には種々のものがあり、当該部位の外観形状が該分級機の構造、用途等を判断するうえで肝要な手掛りとなるものであること、本件意匠に係る分級機にあつては、ドラム本体正面中央部に、周囲に浅いラツパ状に突出した円形枠をやや離して配した円形開孔部を設け、外周面に四枚の仕切板を設けた円錐形シユートが右円形開孔部から先端をやや突出するように設けられ、右円形開孔部の下端より若干上方位置から下の部分のラツパ状円形枠を外方から包み込むように、下方に向けて幅狭となりかつ前方が開放されたシユート状受樋を設けているものであることが容易に看取でき、右の部分が沈澱物の排出・回収部分となつていることを認めることができる。また、本件全証拠によつても、本件意匠に係る分級機にみられる右認定のような外観形状が、ドラム式分級機において看者の注意を惹くこともないほどに慣用されたものであるとは認めることはできない。

2 右認定の事実に基づき判断するに、市場においてドラム式分級機に接する需要者は、一般的に沈澱物等の排出・回収部分の外観形状を、当該分級機の構造、用途等に係わる最も重要な要素の一として、購入すべきか否かの判断をする際の資料として考慮することが通例であるものと認められ、したがつて、前認定の本件意匠に係る分級機の正面に現れる沈澱物の排出・回収部分の外観形状もまた、本件意匠と他の意匠との類否を判断するうえでの本件意匠の重要な部分として評価するのが相当である。

3 そこで、審決が本件意匠に係る分級機と態様を同じくする分級機が記載されているとした本件記事を成立について争いのない甲第三号証によつて検討すると、本件記事には、原告会社では濁水の通路をら旋状にした分級機を開発したとして、製作途次の「赤江砂類分級機」の写真である旨の説明とともに、ドラム式分級機の写真一葉が掲載されているものの、該分級機において沈澱物の排出・回収部分がいかなる外観形状を呈しているかについては、図示・解説を欠き、これを認識すべきなんらの手掛りもないものである。

4 してみれば、前認定のとおりの正面部の外観形状を主要な部分として含む本件意匠は、これに対応する部分がなんら示されていない本件記事記載の分級機から把握できる意匠と態様を同じくするとも類似するものともいえないことは明らかであり、これに反する審決の判断は誤つており、審決は違法として取消しを免れない。(もつとも、前掲甲第一号証によれば、審決はこの点について、「確かにその現わされた態様は、全体については、推認の域はでないが、しかしそこには、被請求人の名前も記され、その解説記事や、甲第五号証その他の証拠関係と照らしても、この記事が明らかに本件意匠とその態様を同じくする分級機が記載されたものであることは充分推認し得る所で、……」と記載しているところであるが、その意味するところは明瞭でなく、右指摘の甲第五号証は原告の作成の「アカエ分級機(ソフト型)・アカエホイール(ハード型)」と題するパンフレツト(本訴甲第四号証)であるところ、これについて審決が「甲第五号証は、被請求人は、かかる刊行物をその出願前に発行した記憶はないと述べ、そしてこれを否定する請求人の具体的主張は見当らず……」としつつ、そこに本件意匠と態様を同じくする分級機が記載されていると別の箇所で認定していることとを併せ考えれば、審決は、本件記事に関する前示部分において、本件記事自体からはそこに示された分級機の意匠の細部までは窺い知れないけれども、本件記事が本件意匠の実施品である分級機を取り扱つていることは明らかであるとの趣旨を記しているものと理解できないわけではない。しかしながら、右のような事情が認められるからといつて、出願前に頒布された刊行物に記載された意匠として本件記事記載の分級機の意匠を考察する場合には、右の事情はなんらの意味を有するものではなく、その他右の事情が本件意匠の登録を無効とする事由としていかなる意義を有するかについても審決中にはこれを明らかにする記載は一切存しないことに照らせば、審決を前示のとおりに理解することは相当でなく、審決は、本件意匠の要旨を、単に「長方形に枠組された架台の四隅角部に支持ローラを回転自在に軸支し、この支持ローラ上に大径のドラム本体を回転自在に支承するとともに、該ドラム本体の中央部に転巻した無端チエーンを架台の一側の駆動部に連係してなるもの」と誤つて認定した結果、右の限りでは、これに類似した意匠が本件記事に記載されていると判断したものと解するのほかはないものである。)

三 以上のとおりであるから、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第二 原告の請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「分級機」として、昭和四九年九月二四日に同年意匠登録願第三三二三三号をもつてした意匠登録出願に基づき、昭和五三年一月一一日に登録第四七五二四六号をもつて登録された、別紙図面のとおり現わされる意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。

被告は、昭和五三年七月一四日、本件意匠の登録を無効とすることについて審判を請求し、昭和五三年審判第一〇八九九号事件として審理された結果、昭和五六年一〇月二七日、本件意匠の登録を無効とする旨の審決があり、その謄本は、同年一二月一四日に原告に送達された。

二 審決理由の要旨

本件意匠の登録出願及び登録の各日は前項記載のとおりであつて、その意匠の要旨は、長方形に枠組された架台の四隅角部に支持ローラを回転自在に軸支し、この支持ローラ上に大径のドラム本体を回転自在に支承するとともに、該ドラム本体の中央部に転巻した無端チエーンを架台の一側の駆動部に連係してなるものと認められる。

しかして、本件意匠の登録出願前に頒布された刊行物である昭和四八年四月一八日付け宮崎日々新聞に掲載された「発明」題下の写真付き記事(以下「本件記事」という。)には、本件意匠とその態様を同じくする分級機が記載されていると認められるから、本件意匠は、意匠法第三条第一項第三号の規定に該当するにかかわらず登録されたものというべく、その登録は無効とすべきものである。

三 審決の取消事由

審決は、本件意匠の要旨の認定を誤り、その結果、本件意匠をもつて本件記事に記載された意匠に類似したものとするとの誤つた結論に至つたものであり、違法であるから取消しを免れない。

1 審決は、本件意匠の要旨を、「長方形に枠組された架台の四隅角部に支持ローラを回転自在に軸支し、この支持ローラ上に大径のドラム本体を回転自在に支承するとともに、該ドラム本体の中央部に転巻した無端チエーンを架台の一側の駆動部に連係してなるもの」としたが、これは総てのドラム式分級機に共通する構成を摘示したものにすぎず、本件意匠の顕著な創作部分であつて意匠の要部というべき正面部の態様を看過しているものである。すなわち、本件意匠の登録出願前公知のドラム式分級機にあつては、ドラム内から砂利を排出する手段としてベルトコンベアを用いていたため、ドラム正面部には空洞の孔部が形成されていたのに対し、本件意匠にあつては、砂利の排出を仕切板を設けた円錐形シユートによつて行うこととしたため、別紙図面に現されたとおり、ドラム一端の正面部には、ラツパ状の取出枠を周囲に設けた円形開口部の中に、外周面に放射状に複数枚の仕切板を設けた円錐形シユートが内から外に向かつて設けられており、更に、ラツパ状取出枠の下部に上端を当接して、下端を幅狭に形成した曲板よりなるシユートが設けられているのである。そして、本件意匠は、右のようにドラム正面部において公知のドラム式分級機と異なつた創作がなされているため、両者に共通する基本的構成から看者に与える印象を凌駕する異別の印象を与えるのであつて、換言すれば、ドラム正面部の態様が本件意匠の要部に含まれるものというべきである。

2 これに対し、審決が本件意匠と態様を同じくする分級機が記載されているとした本件記事には、ドラム式分級機の写真が掲載されてはいるものの、そこには分級機の背面及び右側面が現れる斜視方向の外観が示されているにすぎず、本件意匠の特徴である正面部の態様は全く示されていない。してみれば、本件意匠と本件記事記載の意匠の類似をいうべくもないものである。

第三 請求の原因に対する被告の認否及び反論

一 請求の原因一及び二の事実は認める。

二 同三の主張は争う。

1 本件意匠の要旨は、審決が認定したとおりの全体的形状にあるものというべく、これをもつてドラム式分級機全般に共通する構成を摘示したにすぎないものということはできない。ちなみに、審判手続においては、被告が本件意匠の要旨を審決認定のとおりのものと主張していたのに対し、原告はなんらこれを争わないでいたものである。

原告が本件意匠の要部に含まれると主張する放射状の仕切板を備えた円錐形シユート等の構成は、それ自体新規なものということはできないのみならず、ドラム式分級機という大型機械においてドラム直径の三分の一弱を占めるにすぎない極く小さな部分に係わるだけのものであつて、その点に多少の特徴があつたとしても、意匠全体については看者に対し格別異なつた印象をもたらすものということはできないから、この点をもつて本件意匠の要部とすることはできない。

2 しかして、本件記事に本件意匠と態様を同じくする分級機が記載されていることは明らかであるから、審決は正当であつて、なんら違法な点はない。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙図面

正面図

<省略>

背面図

<省略>

平面図

<省略>

底面図

<省略>

右側面図

<省略>

左側面図

<省略>

A―A断面図

<省略>

B―B断面図

<省略>

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